8月13日、お盆。
山田家は毎年その日に、
親戚一同が仏壇前に全員集合、
ご先祖様を迎えるためにお経を唱えます。
お経はカセットテープで流すのですが、
あるじである父が一応リーダーっぽく仏壇の前に座り、
その後ろにヒラの山田家メンバーが適当に座ります。
今年も、
「さあ、とっととやっちまおうぜ!」
という父の号令のもと、読経がはじまりました。
宴の準備をしていた私は、
後ろの方にそっとすべりこんで、途中参戦。
普段は無駄に騒がしい山田家ですが、
さすがお経、
こんなときは神妙にならざるをえません。
静かに、厳かに、お経の文字を追う一同。
中盤まできて、
「なーむーあーみーだー」の単調な繰り返しになってきたころ、
私は何気なく仏壇の方に目をやりました。
するとそこには、衝撃的な父の背中が。
「いちころ」
バックプリントに、くっきりと、
「いちころ」。
ご先祖様に、なんのメッセージでしょうか。
「いちころでしたね」なのか、
「いちころで逝きたい」なのか、
バックプリントできたということは、
私たちに向かって、
「お前らなぞ・・・」
なのか。
でも知ってます。
ただの、チョイスミス!
洗濯物のいちばん上にあったのを、
ぱっと着てきただけなのでしょう。
聞くところによると、
着るものなんて全部人任せの父が、
どこぞかで気に入って自分で買ったシャツだそうです。
いちころ。
でも父よ、今日の今、それを着なくても。
イトコたちも次第に異変に感づきだし、
こみあげる笑いを抑えることができません。
厳かな読経は、やがて静かな大爆笑となりました。
ごめんね、死んだじいさん、ひいばあさん、
そして見知らぬご先祖さまたち。
父がそちらにいったら叱ってやってください。
ありゃないわ、と。
帰省のたびに、
私の腰はくだけっぱなしです。
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